一般社団法人の設立は財産承継に有効?|相続税の課税対象となるケースをチェック
記事作成日 2022/02/14 記事更新日 2022/06/22
親族間の財産承継として一般社団法人の設立が利用されています。しかし、平成30年の税制改正によって、一般社団法人の理事に相続が発生した場合に一定の要件に該当すると相続税が課されるようになりました。 一般社団法人に相続税が課税されるケースを理解し、財産をどのように後継者へ引き継いでいくか慎重に検討することが大切です。
Contents
一般社団法人を利用した相続税対策とは
一般社団法人を家族の間で資産管理会社として設立する相続税対策が行われてきました。 推定相続人の資産を一般社団法人に移してしまえば、相続が発生した場合に 被相続人の財産には含まれず相続税がかからないとされていたためです。
一般社団法人とは
一般社団法人とは、 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立された法人のことです。 一般社団法人には、以下のような特徴があります。
1. 非営利法人
2. 自由な事業内容
3. 出資持分がない
4. 法人設立がしやすい
一般社団法人は「非営利法人」と呼ばれます。 株式会社は株主の利益分配を目的とする「営利法人」ですが、 一般社団法人は剰余金の分配を目的としない法人のためです。
余剰利益の分配はできませんが、事業内容に制限がないため、 利益を出す収益事業をすることができます。 「収益事業をしてはいけない」法人ではなく、 「利益分配をすることができない」法人なのです。
また、一般社団法人には出資持分がありません。 出資や持分という概念が一般社団法人にはないためです。一般社団法人は、社員(構成員)が2名以上いる場合に登記をすることで設立が可能です。 官庁の許可が不要なため、法人の設立がしやすいメリットがあります。
一般社団法人の設立による相続税対策スキーム
一般社団法人を使った親子間の相続税対策は、具体的には次のような方法で行います。
1. 一般社団法人の設立・資産の移転
2. 相続発生時に社員を変更
1.一般社団法人の設立・資産の移転
一般社団法人を社員(構成員)2名以上で設立し、 親が所有していた不動産や株式などの資産を一般社団法人に移転します。 資産は一般社団名義となるため、移転した時点で親の資産から切り離されることになります。
しかし、一般社団法人で資産運用も自由に行えるため親は理事に就任することで 実質的には個人が資産を所有しているのと変わらない状態で資産の運用管理ができるのです。
2.相続発生時に社員を交代
親が死亡(相続が発生)したときは、 一般社団法人の社員を親から子どもに変更し、子どもが一般社団法人を承継します。 承継した子どもは、 一般社団法人に移転した親(被相続人)の資産を運用管理できるようになるのです。
一般社団法人を承継した子どもに相続税は課税されません。 一般社団法人には出資持分という概念がなく、 資産は移転した時点で個人の財産から切り離され被相続人の財産には含まれないためです。 子どもが死亡し孫に変更する場合も、同様の手続きを行います。
税制改正で一般社団法人も相続税の課税対象に
一般社団法人の設立による相続税節税の行き過ぎを防止するため、 平成30年度の税制改正によって、一定の要件を満たす一般社団法人に対しては 相続税が課税されることになりました。 また、個人から一般社団法人に資産を移転する際の 課税に関する規定が不明確であったことから、基準が明確化されるようになりました。
親族間のみの一般社団法人は相続税の課税対象に
改正によって一般社団法人の理事に相続が発生し、 「特定一般社団法人等」に該当する場合、 一般社団法人に相続税が課税されることになりました。 「特定一般社団法人等」とは、一般社団法人等(一般社団法人又は一般財団法人)のうち、 以下の①②の要件いずれかを満たすものをいいます。
②相続開始以前5年以内において、その被相続人に係る同族理事の数の理事の総数に占める割合が 2分の1を超える期間の合計が3年以上であること。
「同族理事」とは、被相続人、配偶者、3親等内の親族、 その他被相続人と特殊の関係がある人(相続税法施行令第34条第3項に規定)とされています。 過去5年以内に理事であった人が死亡した場合も課税されます。 参考:特定の一般社団法人等に対する課税のあらまし|国税庁
たとえば、親子や親子と孫など親族間のみで一般社団法人を設立し、 理事である親に相続が発生した場合、 その一般社団法人は「特定一般社団法人等」に該当し、相続税の課税対象となるのです。
相続税の課税方法
一般社団法人が特定一般社団法人等に該当する場合は、 以下の計算式で計算された金額を被相続人から遺贈により取得したとし、 一般社団法人に相続税が課税されます。
(相続開始時の一般社団法人の純資産額)÷(相続開始時の被相続人(死亡した理事)を含む同族理事の数)
相続税は一般社団法人が被相続人から取得したとみなされる金額と、 被相続人の相続人・受遺者などが取得した他の財産の合計で計算されます。 基礎控除の計算では一般社団法人は相続人の人数にカウントされません。 被相続人から一般社団法人に資産を移したときに贈与税が課税されていた場合は その金額を相続税から差し引きます。
資産移転(名義書換)も贈与税・相続税の課税対象に
一般社団法人への資産移転に関する課税規定も明確化されました。 個人から一般社団法人へ資産を移した場合の贈与税・相続税の課税対象となる範囲について、 税制改正前は不明確で判断が難しくなっていたためです。 個人から一般社団法人に対して財産の贈与または遺贈があった場合、 その一般社団法人が以下の①から④の要件に1つでも該当しない場合、 贈与税または相続税の課税対象となります。
②理事やその親族などに対して、特別の利益を与えないこと
③定款に「法人を解散した場合、残余財産は国、地方公共団体その他の公益法人等に帰属する」定めがあること
④法令違反、帳簿書類の隠蔽仮装、その他公益に反する事実がないこと (3年以内に、重加算税、重加算金を課せらていないこと)
たとえば、親子や親子と孫など親族間のみで一般社団法人を設立し、 親の所有していた不動産や株式などの資産を移した場合、 一般社団法人への資産の移転が贈与税または相続税の課税対象となるのです。
理事交代時は贈与税が課税されない
一般社団法人の理事を存命中に交代した場合は、贈与税が課税されません。 一般社団法人等の理事の任期は原則2年と短期間で、 現時点では理事の交代のたびに贈与税を課税することが適当かどうか、 適正に課税できるかなどの問題があるとされているためです。
たとえば、一般社団法人を設立した親が生前に子や孫と理事を交代した場合、 贈与税がかかりません。 しかし、今後税制改正により贈与税が課税される可能性もあるので注意が必要です。
一般社団法人設立は財産承継に有効な場合も|相続税対策は慎重に
税制の改正により一般社団法人への課税が見直されましたが、 資産や事業の承継に一般社団法人の設立が有効な場合もあります。
一般社団法人に資産を移動することで、 相続が発生した場合の相続人間のトラブル予防に繋がる場合もあります。 また、急病や事故などで思いがけず相続が発生し 事業が成り立たなくなってしまう事態を避けることも可能です。
一般社団法人を設立を予定していたり、現在理事に就任していたりする場合は、 相続が発生した場合に相続税の課税対象とならないよう、 早めに子や孫へ理事を交代することを検討しましょう。
また、相続税の課税対象となる場合でも、同族理事の数を増やしておくことで、 相続税の課税対象となる金額をおさえることができます。 しかし、今後の改正により今の節税対策が無効になってしまう場合もあるため、 法改正を予想し財産をどのように後継者へ引き継いでいくか慎重に検討することが大切です。
一般社団法人の設立で財産の承継や相続税対策を検討している場合は 相続に強い専門家に相談することをおすすめします。
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