海外不動産投資の節税ができなくなる?

海外不動産投資の節税ができなくなる?

記事作成日 2021/02/16    記事更新日 2023/02/05

昨今は、個人でも節税意識が高まっていることもあり、様々な節税スキームが紹介されています。そのひとつに「国外の中古不動産を購入し、多くの減価償却費を計上することで所得税の負担を減らす」という節税スキームがあります。

しかし、以前からこのスキームは行き過ぎた税逃れであると問題視されており、令和2年度税制改正で規制が入ったことにより、個人の方は令和3年度以降はこの節税スキームの一部を使うことができなくなります。

そこで本記事では、今回の改正の具体的な変更点や改正前後の計算方法の違いについてわかりやすく解説しています。

従来の節税方法‐減価償却費での節税

では、これまでは海外の不動産を所有することによりどのようにして節税につなげていたのでしょうか?

まず、建物を購入した費用は、購入時一括で経費になるのではなく「減価償却」と言われる方法で税法に定められた法定耐用年数により少しずつ経費化されます。

例えば、新築の場合は、
「新築/木造=22年」、「新築/鉄筋コンクリート=47年」ですが、これが中古資産となると計算方法が変わり、
(耐用年数‐経過年数)+経過年数×20%(端数切捨て)で計算され、例えば、築20年の物件を購入した場合には
「中古/木造=6年」、「中古/鉄筋コンクリート=31年」となります。   

ここで、投資の対象が何故海外の不動産なのか?という疑問がでてきます。これは、日本と海外の住宅における資産価値の考え方の違いから、同じ築年数の物件を買っても、海外不動産は購入金額に占める土地と建物の比率で、建物部分の割合が大きいことがあります。

建物割合が大きければ、帳簿上の経費となる減価償却費の金額も大きくなります。そして、海外の不動産でも税務上は日本の耐用年数ルールが適用されます。特に、欧米の住宅などの建物は、日本の住宅とは異なり築年数の経過による価値の劣化が少ないという特徴があります。

そのため、購入金額のうち減価償却の対象となる建物分の割合が多くなり、耐用年数を過ぎた中古物件なら減価償却期間も短くなるので、経費計上できる減価償却費が大きくなります

通常、不動産所得は給与所得など他の所得と損益通算することができます。損益通算とは、不動産投資により収入よりも経費のほうが多くなった場合、その赤字分を他の所得と合算できるという制度です。そのため、不動産の運用で生じた赤字を給与所得等と合算して、課税所得を圧縮することができ、所得税を減らすことができます

また、上述のように築年数の経過による価値の低下が少ない海外不動産は、売却した際に手元に返ってくる金額が大きくなります。この点を用いた節税スキームとして利用されていました。

令和二年度税制改正大綱での変更点と影響

しかし今回の改正により、海外不動産の所得を計算する際に不動産所得の金額が赤字となっても、その損失の金額のうち海外不動産の償却費に相当する部分の金額は、生じなかったものとみなす、すなわちその部分の建物の減価償却費は経費として計上できないこととなりました。よって、決算上の海外不動産の赤字を他の所得と損益通算することができなくなるので、これまでのような所得税の圧縮効果を生み出すことができなくなるというわけです。

令和二年度税制改正大綱からの引用

令和二年度の税制改正大綱のうち、海外不動産投資の節税についての記載は以下の部分です。

3 租税特別措置等(国税)〔新設〕国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例を次のとおり創設する。

(1)個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。

不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する金額を計算する際の耐用年数を次の方法により算定しているものをいう。

  1. 法定耐用年数の全部を経過した資産についてその法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とする方法
  2. 法定耐用年数の一部を経過した資産についてその資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数を耐用年数とする方法
  3. その用に供した時以後の使用可能期間の年数を耐用年数とする方法
    (その耐用年数を国外中古建物の所在地国の法令における耐用年数としている旨を明らかにする書類その他のその使用可能期間の年数が適切であることを証する一定の書類の添付がある場合を除く。)

(2)上記(1)の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除することとされる償却費の額の累計額からは、上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額を除くこととすることその他の所要の措置を講ずる。

「令和2年度税制改正大綱」より引用

節税効果は全くなくなるのか?

では、今回の改正により海外不動産を所有することによるメリットは全くなくなるのでしょうか?答えはNOです。

ただ損益通算不可にするだけでは、海外不動産の減価償却費を費用として認識することができなくなってしまうことになり、所得のみが増えてしまうことになります。

そのため、今回の改正には減価償却費として費用認識されなかった部分については、建物を売却したタイミングで譲渡原価として費用を認識することができるという点も盛りこまれており、その分譲渡所得が小さくなるというわけです。

海外不動産投資は、損益通算による毎年の節税という考えから、売却時の節税へと考え方がシフトしたとも考えられます。

税制改正前と改正後の計算例

それでは、税制改正前と改正後の具体的な計算方法の違いを見ていきます。

海外の中古不動産を購入し、下記のような不動産収支(それ以外に給与所得500万円あり)になったと仮定します。前述したとおり、中古不動産は簡便法により減価償却費を計算するため減価償却費の額が大きくなっています。

【改正前】
海外不動産収入:300万円
必要経費:  △200万円
減価償却費: △400万円
300万の赤字を給与所得500万と合算⇒本年度の総所得金額=200万円

【改正後】
海外不動産収入:300万円
必要経費:  △200万円
減価償却費: △400万円
減価償却費400万のうち赤字の300万部分はないものとみなす⇒本年度の総所得金額=500万円

損益通算できないことにより、給与所得500万円全額が課税の対象となるわけです。

まとめ

本記事では、海外の中古不動産を使った節税方法が塞がれてしまった点について解説しました。新しい税制をキャッチアップしていなければ、思わぬ課税がされてしまうことにもなりますので、ご注意ください。

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