歩いて稼ぐ!STEPNの税金計算方法

歩いて稼ぐ!STEPNの税金計算方法

記事作成日 2022/02/24    記事更新日 2022/06/22

Axis Infinityなどゲームをして稼ぐ「Play to Earn」が2021年に話題となりましたが、ついに歩いて稼ぐ「Move to Earn」が登場しました。健康志向の高まりで、ジムに通う人が急増しており、一駅程度なら歩いて通勤する方もいらっしゃるかもしれません。

今回解説するSTEPNは、アプリをダウンロードして、歩くだけで仮想通貨がもらえる仕組みで、手軽に始められる反面、税務的には思いのほか複雑です。税務署から申告漏れを指摘されない様、どのように所得を計算すればいいのか、税務の専門家の観点から、紐解いていきます。

また、記事後半では弁護士の観点からSTEPNの「賭博性」を解説していますので、是非最後までお読みいただき、今後の処理にご活用頂ければ幸いです。

STEPNとは

STEPNとは、ウォーキング・ジョギング・ランニングをするだけでGST(Green Satoshi Token)がもらえるスマホアプリです。より健康的なライフスタイルを広く普及させることを目的とされています。

2021年12月20日から一般向けベータ版がリリースされ、既に85か国以上でアプリが利用されています。1GST=約319円(2022年2月21日現在)となっており、一日数千円分のGSTが獲得できます。

①本リリース後は、初期投資ゼロで開始することができる予定ですが、現在のところSTEPNを始めるためには、下記のようなアプリ内で販売されているNETスニーカーをまず購入します。

SOLのブロックチェーンで構築されているため、NFTスニーカーの購入にはSOLが必要となります。

②NFTスニーカーを購入又は借りた後は、アプリを起動させ、既定の速度内で歩いたり、ランニングを行えば時間や距離に応じてGSTがもらえます。尚、NFTスニーカーを貸し出している人には、借手が獲得するGSTの7割が分配されます。

獲得したGSTは、SOLやUSDCに交換し、日本円にすることも可能ですが、ゲーム内で下記の用途にも消費されます。

・新しいNFTスニーカーの製造
・NFTスニーカーのレベルアップ
・NFTスニーカーの修理

新しいNFTスニーカーを製造したり、レベルアップを行うことで、より一層もらえるGSTの量が多くなります。③所有しているNFTスニーカーや新たに製造したNFTスニーカーは、アプリ内の市場で売却することができます。レベルアップを行い、能力値を高めることで売値も上昇する傾向があります。

アプリをやめる際は、NFTスニーカーを売却→SOLを暗号資産取引所に送金することで、換金することが可能です。

新しいNFTスニーカーの製造とは

ゲーム内ではMintと呼ばれますが、二足のスニーカーを掛け合わせて新たなスニーカーを作り出すことが出来ます。尚、その際にMint費用として一定のGSTを支払う必要があります。200GSTの場合、約6万円かかります。

親となるスニーカーの種類によって、生み出されるスニーカーは異なり、二段階でガチャの要素が含まれています。

一段階目は、Shoeboxです。新たなスニーカーを生み出した際、まだこの段階ではどのようなスニーカーが出現したかは不明です。おおよそどのようなものが封入されているかは分かるものの、靴箱に入って中身はまだ分からない状態ですね。

二段階目は、Shoeboxを開封し、スニーカー自体を取得するタイミングです。レアリティはCommon<Uncommon<Rare<Epic<Legendaryがあり、例えばCommon×Uncommonで新たなスニーカーを創った場合、50%の確率でCommon、49%の確率でUncommon、1%の確率でRareのシューズボックスが得られます。

ここでUncommonのシューズボックスが獲得でき、開封した場合25%の確率でCommon、73%の確率でUncommon、2%の確率でRareのスニーカーが獲得できます。

アプリ内の市場を見ると、Common:約8万円、Uncommon:約20万円、Rare:約200万円と金額が大きく異なります。尚、親となるスニーカーは消滅せず、継続して利用することができます。

NFTスニーカーのレベルアップとは

NFTスニーカー毎に個体値があり、レベルアップによって稼げる割合を増やすことなどができます。性能は、以下4つで構成されています。

・Efficiency(効率性)
・Luck(運)
・Comfort(快適さ)
・Resilience(回復力)

ゲームの進め方によって、どの能力を伸ばすかはユーザー次第ですが、能力値が高いNFTスニーカーの方が高値で取引されています。レベルアップには、GSTを消費する必要があり、例えば6レベルから7レベルにUPさせる際は、7GSTが必要です。

NFTスニーカーの修理とは

NFTスニーカーを使って、ウォーキング・ランニングを行うと、GSTを稼ぐことができますが、耐久性がどんどん下がってきます。

耐久性が50%以下になると稼げる割合が下がるため、耐久性を戻す=修理を行う必要があります。修理には、GSTの消費が必要となります。

税務的にはどんな点に注意すればいい?

STEPNは手軽に始めることができ、健康的かつ稼げるということで、非常に魅力的なアプリだと思います。

一方、税務上は色々と考慮すべき点が多く、本格的に始める方は是非最後まで読んで頂ければ幸いです。税務上の所得の計算をする手順を、順を追って説明していきます。

※NFT、暗号資産に関しては税制も随時アップデートされますので、現時点で分かる範囲での私的見解となります。

①STEPNのWalletに暗号資産(SOL)を送金した際。

送金元の取引所で発生した送金手数料が、送金したときに費用となります。

②WalletからSpendingに入れ替えた際。

アプリ内で通貨を使用するためには、WalletからSpendingアカウントに移し替えする必要があります。その際、一部手数料がかかりますが、移し替えた時点の費用となります。

③NFTスニーカーを購入した際。

アプリ内のマーケットでスニーカーやシューズボックスを購入することができます。その際、SOLを用いて購入します。SOLを取得した時点から、NFTスニーカー購入した時点までにSOLが値上がりしている場合、値上がり分が利益となります。

Ex.1SOL=10,000の時に、8SOL購入。1SOL=12,000円の時に、7SOLでNFTシューズ購入。12,000円×7SOL―10,000円×7SOL=14,000円の利益

尚、84,000円(12,000円×7SOL)がNFTスニーカーの取得価額となります。

④歩いてGSTが配布された際。

配布された時点のGSTレートで利益を計算します。考え方としては、マイニングにより報酬を受け取った時と同じ扱いです。レンタルでGSTを獲得した時も同様です。

⑤GSTをレベルアップに消費した際。

レベルアップに消費した際は、その際のGSTレート換算し、資本的支出としてNFTスニーカーの原価に上乗せされます。また、消費GST量×(レベルアップ時のレート―GST配布時レート)が損益として認識されます。

⑥GSTを修理に消費した際。

NFTスニーカーの修理に消費した際は、消費GST量×GST取得原価を費用として計上します。利確の部分については、結局相殺されますので、この部分では修理時のレートは考慮しなくて問題ありません。

⑦Mintにより新たな靴を製造した際。

GSTを消費し、所有している2足のNFTスニーカーから、あらたなNFTスニーカー(正確にはShoebox)を生み出すことができます。Mintした際は、その際のGSTレートで換算し、新たなNFTスニーカーの取得価額として認識します。

また、消費GST量×(Mint時のレート―GST取得時レート)が損益として認識されます。尚、Mint時に、既存の靴の価値が下がると考えられますが、損益は実現していないため、税金の計算では考慮不要です。

⑧Shoeboxを購入した際。

Shoeboxは開封までどのようなNFTスニーカーが生まれるか分かりませんので、ガチャ的な要素が含まれています。

UncommonのShoeboxを購入し、Rareの靴が生まれた場合、Rareの価格ははるかに高いですが、あくまでこの時の取得価額はShoeboxを購入した対価であり、含み益部分はまだ課税されません。

⑨NFTスニーカーを売却した際。

③のスニーカー購入時取得価額+⑤レベルアップによる資本的支出=NFTスニーカーの原価となります。

例えば、③7SOL(1SOL=12,000円)+⑤30GST(1GST=300円)の場合、NFTスニーカーの原価は93,000円となります。これを、10SOL(1SOL=11,000円)で売却した場合、利益=10SOL×11,000円―93,000円=17,000円となります。

NFTスニーカーを「無形資産」と考えるのであれば、個人の方が譲渡した場合、譲渡所得となり下記の様に所得を計算できる可能性はありますが、現状では雑所得とする方が無難です。

譲渡所得の金額 = 譲渡価額-取得費(注1)+譲渡費用(注2))-50万円(注3)
(注1)取得費とは、一般に購入代金のことです。このほか、購入手数料や設備費、改良費なども含まれます。
ただし、使用したり、期間が経過することによって減価する資産にあっては、減価償却費相当額を控除した金額となります。
(注2)譲渡費用とは、売るために直接かかった費用のことです。
(注3)譲渡所得の特別控除の額は、その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。
その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。また、所有期間が5年超の場合は、上記で計算した譲渡所得の金額×1/2が総合課税の対象となります。

⑩GSTをSOLに交換した際。

通常の暗号資産取引と同様に、利確&手数料はSOLの原価に算入となります。

⑪SOLを暗号資産取引所に送金した際。

送金手数料が送金時の費用として計上されます。

ここまでのまとめ

手軽に始められることが出来るかつ歩いて稼げるということで、最近注目を集めているSTEPNですが、実は税務的には結構複雑です。

クリプタクト等の暗号資産損益計算ソフトでも、GameFiは今のところ対応できていないため、確定申告の際は自力で計算する必要があります。

SOLの購入~ゲーム利用~NFTスニーカーの売却~取引所でのSOLの売却を同一年度で行いさえすれば、結局は最初のSOL購入価額と最終のSOL売却時の価額を比較するだけで損益計算できますので、実務的には年度内で一旦完結した方が良いかもしれません。

法律上の注意点について【愛宕虎ノ門法律事務所監修】

GameFiでは、暗号資産を用いてゲーム内の道具を購入したり、その道具を他のユーザーに売却したりすることで暗号資産を得ることができます。

しかし、GameFiにおいては、偶然の結果得られる経済的利益が異なる場合があるため、賭博罪に該当する可能性があるのではないかといった指摘がなされており、本記事で紹介しているSTEPNについても同様の指摘があてはまります。

そこで、今回は、GameFiの法的問題点として、賭博罪という刑事上の責任を負う可能性の有無について、STEPNを題材に解説します。 

そもそも、日本国の刑法第185条は、賭博罪について以下のとおり規定しています。

賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽の供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。そこで、「賭博」の定義が問題となりますが、「賭博」とは「偶然事情に関して財物を賭け、勝敗を争うこと」と定義づけられています[1]
この定義は、以下の通り3つの要件に分けることができます。

1 偶然性があること
2 財産上の利益
3 財産の得喪を争うこと

以上の3つの要件をすべて満たす場合に刑法上の「賭博」に該当し、賭博罪として処罰される可能性が発生します[2]

そこで、STEPNが上記3つの要件を満たすかを検討すると、主に、上記の「③NFTスニーカーを購入した際」「⑧Shoeboxを購入した際」が、賭博罪の成否において問題となり得る行為になると考えられます。

要件1 「偶然性があること」

まず、要件1「偶然性があること」から検討しましょう。

裁判例によれば「偶然」とは、「当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、また、主観的に不確定であることをもって足り、客観的に不確定であることまでを要しない」[3]と定義されています。

この点については、「③NFTスニーカーを購入した際」、「⑧Shoeboxを購入した際」それぞれの場面で、購入した人がどのようなクオリティのNFTスニーカーやShoeboxが手に入るかわからないことから、当事者において確実に予見できないため、「偶然性がある」といえます。

要件2 「財産上の利益」

続いて、要件2「財産上の利益」についても検討しましょう。

ここにいう「財産上の利益」というのは、「有体物又は管理可能物に限らず、広く財産上の利益であれば足り、債権等を含む」とされていることから[4]NFTスニーカーやShoeboxをユーザー間で取引することで金銭的な利益を得ることができることからすると、「財産上の利益」といえそうです。

要件3 「財産の得喪を争う」

それでは、要件3「財産の得喪を争う」といえるのでしょうか。

裁判例によれば「財産の得喪を争う」とは、「勝者が財産を得て、敗者はこれを失うことを意味する。当事者の一方が財産を失うことがない場合は、財物の得喪を争うものとはいえない」とされています[5]

まず、「③NFTスニーカーを購入した際」は、ユーザーが暗号資産を使用することで、ユーザーが希望する「その」NFTスニーカーを購入し、STEPNをプレイすることができるという効用が得られ[6]、そこに対価性を見出すことができるため、「勝者が財産を得て、敗者はこれを失う」といえないように思われます。

次に、「⑧Shoeboxを購入した際」についても、「③NFTスニーカーを購入した際」と同様、ユーザーが希望する「その」Shoeboxを購入し、それを開封することによって、STEPNをプレイするという効用が得られ、そこに対価性を見出すことができるため、「勝者が財産を得て、敗者はこれを失う」といえないように思われます。

さらに、以上の理由だけでなく、STEPNのシステムがSTEPNをプレイすることによって暗号資産を得ることができるシステムであることからして、STEPNのゲームシステム自体が「勝者が財産を得て、敗者はこれを失う」という構図ではないともいえそうです。 

よって、本稿で取り上げたSTEPNのシステムであれば、要件3「財産の得喪を争う」とはいえないことから、賭博罪に該当するとして刑事上の責任を追及される可能性は低いと思われます

【本記事の法務部分について】

愛宕虎ノ門法律事務所監修
同社HPリンクはこちら
インド・中国などアジア各国の国際法務/愛宕虎ノ門法律事務所 (law-t.com)

[1] 前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・河村博・秋吉淳一郎・伊藤雅人・田野尻猛『条解刑法第4版』株式会社弘文堂、548頁
[2] 賭博罪の但し書きにある通り、仮に3つの要件全てに該当したとしても「一時の娯楽の供する物を賭けたにとどまるとき」は、
賭博罪として処罰されないことになりますが、本稿では紙面の都合上省略します。
[3] 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀『大コンメンタール刑法第3版第9巻』株式会社青林書院、124頁
[4] 同、127頁
[5] 同、128頁
[6] 天羽健介・増田雅史編著『NFTの教科書』朝日新聞出版、233頁において、
「ガチャの仕組みで得たNFTを利用してゲーム内でバトルゲームやRPGゲーム等を楽しめることにより、有償のガチャで消費した経済的利益の対価がNFTそれ自体というよりもゲームに参加できる利益であって各NFTに価値の差はない等といえるような場合には、消費者に喪失は生じていないと評価されることがあり得るように思われます」との指摘があります。

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